PI 研究者

教授 
稲垣 毅
Takeshi Inagaki, MD, Ph.D

紹介

 2016年から、群馬大学生体調節研究所教授として研究室を主宰しています。生体や細胞のエネルギー代謝が変化するときに、細胞内で、どのようなタンパク群が離合集散し、ゲノムやクロマチンの空間的な構造が変わっているのか、について目に見えるような形で明らかにしたいと考えています。その結果、これまで漠然と理解されてきた「体質」「病気のなりやすさ」「体調と気分」といったものをつかさどる機構を科学的に深めることで、学問の蘊奥に少しでも触れたいと思っています。

略歴
1999年3月 信州大学 医学部医学科 卒業
1999年4月 信州大学 医学部 老年医学講座 (橋爪潔志教授)
(1999年12月~2000年11月 長野県厚生連篠ノ井総合病院)
2001年3月 信州大学 医学部附属病院 内科研修 修了
2002年9月 テキサス大学 サウスウェスタンメディカルセンター 研究員
(Steven Kliewer教授、David Mangelsdorf教授)
2007年11月 テキサス大学 サウスウェスタンメディカルセンター 講師
2008年4月 東京大学 先端科学技術研究センター 特任助教 (酒井寿郎教授)
2009年3月 信州大学大学院 医学系研究科 修了 (医学博士)
2009年10月 東京大学 先端科学技術研究センター 助教 (同上)
2010年4月 東京大学 先端科学技術研究センター 特任准教授 (同上)
2016年10月 群馬大学 生体調節研究所 教授 


 1999年に信州大学医学部を卒業後、内科医として勤務しながら研究を始めました。ビタミンAの核内受容体であるレチノイン酸受容体の研究を行い、レチノイン酸に応答する遺伝子(APBB1IP)のクローニングに成功し、機能を明らかにしました。  
 核内受容体研究を深めるため、テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンターのSteven Kliewer教授及びDavid Mangelsdorf教授の研究室に留学し、研究員および講師として2002年から2008年まで研究しました。ここでは、絶食や摂食の時に、核内受容体が糖や脂質代謝を制御する機構について、研究しました。その結果、核内受容体の機能が下流のホルモンによって制御される新しい機構(「PPARα―FGF21 axis」と「FXR―FGF15 axis」)を発見し、「核内受容体―内分泌FGF axis」という新概念に結実しました。  
 核内受容体は、文字通り、核内の遺伝子ゲノムにある特異的な遺伝子配列に結合して転写を調節します。この細胞の核内にある遺伝子ゲノムはヒストンに巻き取られたのちクロマチンを形成してコンパクトに収納されています。そのため、核内受容体がゲノムに結合するとき、「どのようにゲノムやクロマチンの構造が空間的緩むか」や「どのように、ほかのタンパク質群との立体構造を形成するのか」について研究したいと考え、2008年から2016年まで、東京大学先端科学技術研究センター代謝医学分野(酒井寿郎教授)においてエピゲノム制御機構の研究を行いました。
 その結果、ヒストンH3K9の脱メチル化酵素であるJmjd1a 欠損マウスが肥満や高脂血症、糖尿病といったヒトでいうメタボリックシンドロームを呈することを発見し(眞貝洋一先生と共同)、さらに、JMJD1Aの265番目のセリン(S265)が、βアドレナリン受容体シグナルを介してリン酸化されることを発見しました。リン酸化されたJMJD1Aは、クロマチン再構成因子と核内受容体を含むJMJD1A-SWI/SNF-PPARγ複合体を形成し、それによってクロマチンループを形成してエンハンサー領域とプロモーター領域が近接化することで、標的遺伝子の発現を制御する機構を解明しました。さらに、同様の機構を介して働く別の因子としてヒストン脱メチル化酵素FBXL10を見出しました。 
 このように、細胞外シグナルを感知したヒストン脱メチル化酵素がタンパク質複合体を形成し、クロマチン構造を制御して転写を調節するという新概念を提示しました。現在、これが細胞の記憶として記録されるためにどのようにしてメチル化変化へとつながり、持続的な環境の変化に適応していくかという研究へと発展させています。

研究テーマ

・ 生体の代謝制御機構
・ エピジェネティクス
・ ヒストン修飾とクロマチン構造を介した転写調節機構
・ 核内受容体と内分泌FGFs

代表論文

Transcriptional and epigenetic control of brown and beige adipocyte cell fate and function.
Inagaki T., Sakai J, Kajimura S. (2016) Nature Reviews Molecular Cell Biology  17(8):480-95.  Review.  PMID: 27251423

JMJD1A is a signal-sensing scaffold that regulates acute chromatin dynamics via SWI/SNF association for thermogenesis.
Abe Y., Rozqie R., Matsumura Y., Kawamura T., Nakaki R., Tsurutani Y., Tanimura-Inagaki K., Shiono A., Magoori K., Nakamura K., Ogi S., Kajimura S., Kimura H., Tanaka T., Fukami K., Osborne T.F., Kodama T., Aburatani H., Inagaki T.*, Sakai J.* (2015)  
Nature Communications 7;6:7052.  PMID: 25948511  (*Corresponding author)

The FBXL10/KDM2B scaffolding protein associates with novel polycomb repressive complex-1 to regulate adipogenesis. 
Inagaki T.*
, Iwasaki S., Matsumura Y., Kawamura T., Tanaka T., Abe Y., Yamasaki A., Tsurutani Y., Yoshida A., Chikaoka Y., Nakamura K., Magoori K., Nakaki R., Osborne T.F., Fukami K., Aburatani H., Kodama T., Sakai J.* (2015). J. Biol. Chem.  290(7):4163-77.  PMID: 25533466  (*Corresponding author)

Obesity and Metabolic Syndrome in Histone Demethylase JHDM2a Deficient Mice.
Inagaki T.
, Tachibana M., Magoori K., Kudo H., Tanaka T., Okamura M., Naito M., Kodama T., Shinkai Y., Sakai J. (2009). Genes to Cells  14(8):991-1001.  PMID: 19624751

Inhibition of IGF-1 signaling and growth by the fasting-induced hormone FGF21.
Inagaki T.
, Lin V.Y., Goetz R., Mohammadi M., Mangelsdorf D.J., Kliewer S.A.  (2008). 
Cell Metab.  8(1), 77-83.  PMID: 18585098

Endocrine regulation of the fasting response by PPARα-mediated induction of fibroblast growth factor 21. 
Inagaki T., Dutchak P., Zhao G., Ding X., Gautron L., Parameswara V., Li Y., Goetz R., Mohammadi M., Esser V., Elmquist J.K., Gerard R.D., Burgess S.C., Hammer R.E., Mangelsdorf D.J., Kliewer S.A.  (2007). Cell Metab. 5(6), 415-425.  PMID: 17550777

Regulation of antibacterial defense in the small intestine by the nuclear bile acid receptor.  
Inagaki T., Moschetta A., Lee Y-K, Peng L., Zhao G., Downes M., Yu R.T., Shelton J.M., Richardson J.A., Repa J.J., Mangelsdorf D.J., Kliewer S.A.  (2006).
Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 103(10), 3920-3925.  PMID: 16473946

Fibroblast growth factor 15 functions as an enterohepatic signal to regulate bile acid homeostasis.
Inagaki T., Choi M., Moschetta A., Peng L., Cummins C.L., McDonald J.G., Luo G., Jones S.A., Goodwin B., Richardson J.A., Gerard R.D., Repa J.J., Mangelsdorf D.J., Kliewer S.A.  (2005).  
Cell Metab. 2(4), 217-225.  PMID: 16213224

The retinoic acid-responsive proline-rich protein is identified in promyeloleukemic HL-60 cells.  
Inagaki T.
, Suzuki S., Miyamoto T., Takeda T., Yamashita K., Komatsu A., Yamauchi K., Hashizume K.  (2003).  J. Biol. Chem. 278(51), 51685-92.  PMID: 14530287

・  日本内分泌学会研究奨励賞 (2016)
・  成人血管病研究振興財団岡本研究奨励賞 (2012)
・  日本内分泌学会若手奨励賞 (2007)
・  UTSW Postdoctoral Association Travel Award (第一位) (2006) 
・  Keystone Symposia Scholarship Award (Nuclear Receptors) (2006)

所属学会ほか

・  日本分子生物学会
・  日本内分泌学会(若手YEC委員)
・  
日本糖尿病学会
・  日本内科学会